何気なく見える石の裏に、
熟達した職人の轍
石工職人 千葉勇 (犬塚石材本店)
日本の代表的な石都岡崎で、大正より続く犬塚石材本店の千葉勇さんは、この道45年の大ベテラン。石のことなら何でも来いな千葉さんならばと、「職人のクラフト重石」otemaeと共同開発していただきました。

食に関する道具開発は千葉さんにも初めての試みだったそうで、繰り返す試行錯誤の末にようやく完成。そんな「後戻りが利かない」難しさのある石工職人さんの仕事や、今回のコラボについて、蔵元 桝塚味噌の四代目でもあるotemaeの野田好成も参加の上で、お話を伺いました。

ゲスト : 野田好成 ( 蔵元 桝塚味噌 / otemae )
撮影 : 小暮和音 ( CONTRAST
聞き手・編集 : 山本恭輔 ( otemae )

日本三大石都の岡崎市にある石材店

──岡崎市は石都として有名ですが、どのような経緯でそうなったのでしょうか?

千葉 : 大昔に岡崎城を作るときに、石工職人さんを集めて作らせたことに由来しているという話があります。そのまま数多くの職人さんがこの地域に住み着いて、いまに至っているようですね。

──そんな岡崎にある犬塚石材本店さんですが、普段はどんなものを作られているのですか?

千葉 : 基本的には暮石をやっています。もちろん、ご注文をいただければ何でも作りますが、例えば灯篭など、難しいものは外部の専門の方に依頼することもあります。弊社は卸でもあるので、余程でないとお断りすることはないですね。

──石材店と一言で言っても専門が別れているのですね。設計もこちらでやられているのですか?

千葉 : そうですね。いまは図面はCADで作るのですが、弊社にもオペレーターがいます。簡単なものだと手書きの場合もありますが、特に設計が複雑なものにはCADを使いますね。

──よくよく考えるとあまりイメージが湧かないのですが、石ってどのように取られてるんですか?

千葉 : 岩山などにある岩盤の上で火を焚いて、水を掛けるんです。そうすると、天然の硬い石でも割れてくれるので、そこから採石していきます。石は植えて育てられるものじゃないので、限りある資源として有効に使わないといけないですね。

──ちなみに、石工職人さんの仕事の勘所ってどういうところですか?

千葉 : 丸みがあるものを作る場合は、形状が均一に仕上がるように磨かないといけないので、そこは難しいところかもしれないですね。また、磨きも重要な工程なんですが、その前の下地作りも大切です。もし凹みがあったりすると、砥石が当たらなくて綺麗に磨けなくなってしまうので。

「石工職人」について

──職人さんが一人前になるまでに、どのくらいかかるものでしょうか。

千葉 : 目指す技量や職種にもよりますが、一人前になるのはなかなか難しいことです。昔は、3〜4年くらいが修行期間だったのですが、そのくらいだと、仕事を一通り覚える前に終わってしまうんですよね。

作業自体は、2〜3年目くらいからちょっとずつやっていけるんですが、一人前と呼ぶには程遠い段階です。

──作業場を見せていただきましたが、工具や機械の種類も豊富ですし、覚えることが多そうですよね。

千葉 : そうですね。それに、最近はどうしても国内加工が減ってきているので、機会が少なかったりもするんですよ。例えば、宝塔なども修行中の養成工に作り方を教えたりするのですが、とても細かくて複雑そうに見えるものの、作業行程をひとつずつ追っていけば作れるようになるものなんです。

でも、ひとつふたつ作ったって忘れちゃうもんね(笑)いかに数をこなすか、という部分で難しさがあるんです。研磨とか、簡単に反復作業できるものは覚えてもらうんですけど。

──なるほど、練習だからといって宝塔を何個も作るわけにはいかないですもんね…

千葉 : 本当に何でもできる一人前の職人となると、10年くらいはかかるんじゃないでしょうか。私もここに45年いますが、じゃあ灯篭が作れるのか、何でもできるのかっていうと違うんですよ。見様見真似でできないことはないけど、簡単なことではないです。

──45年やられてきて、取り巻く環境の変化についてはどう感じていますか?

千葉 : 昔は手でやっていたことが機械化されて、複雑な造形でもできるようになり、作るものに合わせて工具や機械も様々なものが出てきました。

ですが、同業者の話なんかも聞いていると、いま結局シンプルなものに戻っていってるみたいですね。新しい工具や機械だと高価な場合も少なくないのですが、高いから良いかっていうとそうとは限らなくて。最終的には、昔ながらの形が良いというのはあるみたいですよ。

otemaeでコラボした「職人のクラフト重石」

──otemaeでは「職人のクラフト重石」という名目で、一般家庭でも本格的なみそ仕込みができる天然石の小さな重石の開発でコラボさせていただきました。実際に作られてみていかがでしたか?

千葉 : 今回は重量の指定をいただいたのですが、直径をどのくらいにするかって部分は作ってみないとわからない部分があって、測って削ってを繰り返しました。石の加工は後戻りが利かないので、何度も試作を重ねて、最終的な仕様に辿り着きました。

野田 : みそ仕込み専用の重石ということで、均等に重さが掛かるバランスの取れた形状であることがこだわりのポイントでした。細かいところでいうと、縁の部分の削りをどうするかなどもありましたね。

千葉 : 途中で四角型から丸型に変更したんですよね。みそを仕込むための重石ってのは、やっぱり初の試みなので、打ち合わせも何度も繰り返して。

野田 : そうですよね。みそ屋の私でも聞いたことがないです(笑)

──石には色んな種類がある中で、今回採用された石はどんなものなんですか?

千葉 : 石にも硬さの違いや吸水性の違いがあって、今回採用したのは、硬くて吸水率が低いアーバングレーという種類のインドの石材です。

野田 : みそを仕込むと、たまりという液体が発生するので、吸水性が低いものが良かったんです。

──今回のクラフト重石はかなり艶がありますが、コーティングなどはしていないのですか?

千葉 : 一切していません。研磨のみで艶を出しています。

野田 : 初めて見せてもらったとき、薬剤などで艶を出してるのかなと思ったのですが、研磨だけとは驚きましたね。あまりに綺麗だったので、これ本物の石か?って思ってしまうくらい。食材に直接触れるものなので、余計なものが使われていないのはありがたかったですね。

千葉 : 特に元々の模様が均一だったりすると、本職の私ですら、これ本当に石?って思うことがあります(笑)砥石の種類を変えながら丁寧に磨いていくと、綺麗に仕上がるんですよ。

──CADで設計をするってお話もありましたが、これはさすがに…?

千葉 : これは手書き。

一同 :(笑)

千葉 : ここまでシンプルな形状だと、さすがに必要ないですね(笑)

犬塚石材本店
愛知県岡崎市稲熊町赤松6-13

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